「烹ろ」
酈生はいった。
「わしがあんたの前で述べた言葉はことごとく真実だ。あんたはこの酈生のまなこを見、言葉をきいた。それでもなおわしという人間がわからずに烹ようとしている。つまりは腐った人間だということだが、そういう男に命乞いをするためにわしは
韓信の陣営へ行こうとは思わぬ。
韓信はいいやつだ。それ以上に、このおれはいい士だ。士とは絶体絶命の境地にきてはじめて真価のわかるものだが、いま自分の命の惜しさに
韓信のもとにゆけばわしは士でなくなる。烹ろ。烹られることによって士になりうるのだ」
司馬遼太郎「
項羽と劉邦」下巻 101項
新潮文庫 1984年
司馬遼太郎天才だな!